私は天使なんかじゃない






The Legend









  そして伝説が始まる。





  激しい剣撃の応酬はすぐに終わり、お互いに距離を取って構えあっている。
  伝説の運び屋トロイ。
  死神デス。
  卓越した剣術を持つ2人は身に備わっている技の数々で応酬する方法を止め、持久戦の構えを取り、お互いに必殺の一撃を屠るべく睨み合っている。
  勝負は一瞬。
  「……」
  「……」
  お互いに軽口(デスの場合は軽口ではないのだが)は消えている。
  最高の腕を持った2人。
  生き残るのは1人。
  集中は研ぎ澄まされ、わずかな隙すらも見逃さないだろう。
  そして……。

  「ターイムっ!」
  
  「はあ?」
  「……何だ、あいつは……見たことあるな、だが、僕は覚えてないな、ただの通りすがりの雑魚か?」
  現れたのは革ジャンを着た青年。
  デスに対して抗議の声。
  「お前何度も会ってんだろうがっ!」
  「覚えてないな」
  呆れたような顔をトロイはした。
  「何の用だ、兄貴」
  「そいつは俺様の獲物だ、悪いが先に譲ってもらうぜ、トロイ」
  「へぇ? まあ、いいけど」
  「よっしゃっ!」
  ブッチ・デロリア、頂上決戦に介入。





  銀色の、人型の造形の存在は悠然と歩きだす。
  その正体。
  それはバンシー。
  普段の彼女は人工皮膚を纏っていた為、一見すると美し過ぎる女性ではあったものの、その実態はアンドロイド。ただし連邦製の、ではなく戦前のアメリカ軍によって作られた
  オペレーター用のロボット。長い間アメリカ軍基地跡に放棄されていたのをボマーに発掘され、今に至る。
  ボマーに従がう忠実な腹心、懐刀。
  人工皮膚は耐ダメージ用の処置が施されており耐弾、耐熱等の仕様。レーザーが効かないのもその為だ。
  骨格はアダマンチゥム。
  結果として防御力に関しては絶対的な無敵を誇っている。
  「私の皮膚をよくも」
  「はあはあ」
  メカニストはもはや抵抗する気力もない。
  荒い息をしながら膝を付いている。
  トーチャーの火炎放射器のボンベを強力な爆弾として使用したものの、バンシーの皮膚を消し飛ばすことが精一杯で致命傷は与えられなかった。
  万策尽き、体力も尽き、武器もない。
  抵抗のしようがない。
  「この皮膚は、まあいいわ、ボマーと一緒に連邦に行って直すから」
  「はあはあ」
  「他の東海岸の雑魚どもはもう片付いた頃合いだろうし私もこれで切り上げるとするわ。お名残惜しいけど、これでさよなら。バイバイ」
  「はあはあ、くそっ!」
  メカニストの首元を掴んでバンシーは顔を近付けた。
  大きく開かれる口。
  近距離からの声の攻撃。
  防御力のあったコスチュームはもはや残骸で、メカニストの体力もなく、そして近距離の攻撃。
  到底耐えられるものではない。
  「死ね」
  「あんたがねっ!」

  ピカ。

  9条の光がバンシーに降り注ぐ。
  さすがにこれには耐え切れないのかバンシーは大きく吹き飛ばされた。現れたのはレディ・スコルピオン。素性を隠す為に今まで使用もその存在も隠してきたメタルブラスターを
  惜しげもなく使用している。メカニストは別にトンネルスネークの仲間ではないが、ボスであるブッチが仲間として接している以上、救わないわけにはいかない。
  そして彼女は特にメカニストのことを嫌ってもいなかった。
  「大丈夫?」
  駆け寄るレディ・スコルピオン。
  喉元に手を当てて咳き込みながらメカニストは立ち上がった。
  「すまない、助かったよ。それにしてもすごいレーザーライフルだね、初めて見たよ」
  「そこには触れないで」
  「そ、そうなのか?」
  「込み入ってる」
  「そ、そうか、すまなかった」
  「別にいい。あたしの後ろに。あいつまだ動いてる」
  ゆっくりと立ち上がるバンシー。
  右腕が転がっている。
  「よくもやってくれたわね」
  「ちっ」
  メタルブラスターを構え直すも充填はまだ済んでいない。9発分のレーザーが発射のだからそれだけ時間が掛かる。
  連射は出来ない。
  そういう意味では乱戦では効率が悪い。倒し損なった生き残りに反撃されたらお終いだからだ。
  負傷しているメカニストを庇いながら後ろに下がるレディ・スコルピオン。
  「まさか耐えるとは思ってなかった」
  「それにしても面白い武器を持っている。それ、西海岸で見たことがあるわ。あれは確か……」

  ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドっ!

  激しい銃撃音。
  大量の弾丸。
  響く気渡り、そして撃ち出されるのは軽機関砲からの掃射。バンシーはその衝撃に再び大きく吹き飛ばされた。
  「遅くなった、すまん」
  「何してたわけ?」
  「軽機関砲なんて重い物を平然な顔して、いつものスピードで持って移動できるかってんだ」
  持っているのはライトマシンガン。
  ガンナーの愛銃の1つ。
  当然ベンジーは能力者ではないのて2丁持つということはできない。
  「ところで、やったわけ?」
  「普通なら死んでるが……」

  「くそがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  『……っ!』
  バンシーから発せられた声に一同が吹き飛ばされる。
  衝撃波。
  半ばショートしたような音をさせながらもバンシーは立ち上がった。弾痕が深く残っていたりするものの活動に支障はないようだ。
  さらに声の攻撃。
  駄目押しの一撃に全員がその場から動けない。
  形勢逆転。
  「まったくっ! その銃はガンナーの物よね? 殺したってわけね。マシーナリーとオートマタのコンビは地上にいたはず、やり過ごしたのか倒したのかは知らないけど、少なくともトーチャーは
  さっき消し飛んだ。先遣隊はとっくに全滅。東海岸の雑魚どもに我々ストレンジャーがここまで追い詰められるとはねっ! まったく、やってくれるわっ! やってくれたっ!」
  「くっ」
  「忌々しいわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  『……っ!』
  ダウン。
  ダウン。
  ダウン。
  攻撃することも逃げることもできない。
  「殺してあげるわ、一気にねっ!」
  「<BEEP音>」
  勇ましい音楽とともに真紅の火線がバンシーを襲う。咄嗟に回避、その火線は通路をまっすくど進み、そして彼方で盛大に爆発した。
  爆発した先を振り返るバンシー。
  それから嗜めるように言った。
  「駄目よチビちゃん、そんな攻撃して仲間が死んだらどうするの? でもこれはいいところに来たわ、あなたを支配してあげる」
  ゆっくりと手をED-Eに向ける。
  ジジジジジという音ED-Eの内部からした。
  「駄目だっ! 逃げろっ!」
  メカニストが叫ぶ。
  今なら分かる、あれがハッキングの類だということに。ED-Eが支配されたらこれまで以上に厄介になるだろう。ただ、そのことについてはメカニストたちは考える必要はなさそうだ。
  何故ならバンシー1人で手一杯で、このままだとバンシーに殺されるからだ。
  ED-Eが支配された後のことは考える意味がない。
  「ふふふ、チビちゃん、ストレンジャーの世界にようこそ」

  VSバンシー戦。
  メカニスト、レディ・スコルピオン、ベンジャミン・モントゴメリー軍曹、戦闘不能。
  ED-E、バンシーの支配の干渉。





  グレイディッチ。地下。
  牢代わりの備品室。
  「あー、くそっ! このメス蟻が、あくまで抵抗しやがるかっ!」
  「はあはあ」
  アンタゴナイザーを気に入ったローチ・キングはボマーに頼み込んでアンタゴナイザーを貰った。戦いを挑む、のではなく性的に挑もうとしている。とはいえアンタゴナイザーも
  カンタベリー・コモンズで正義のヒーローの一角として活動している為、また、自分の故郷を滅ぼした宿敵ストレンジャーへの報復の為に鍛えている。
  拘束されているならまだしもアンタゴナイザーは拘束されていない。
  武器が取り上げられただけだ。
  簡単には引けを取らない自信があった。しかし体力差はどうしようもない。
  「男の本気ってやつを教えてやるぜ、蟻の女王様」
  「はあはあ、ねぇ?」
  「なんだい? 優しくしてほしいのかい? 悪いが荒々しいのが俺の好みでね、あんたにも慣れてもらうしかないなぁ」
  下品な笑い。
  駄目だこいつ何とかしないととアンタゴナイザーは内心で思いつつも疑問を口にする。
  「さっきから銃撃音がするけど」
  「ああ、それか。ブッチ何とかって奴らが攻めてきてるんだよ。裏切り者のヴァンパイアとか弱虫ビリーと愉快な仲間たちもな。ボルト101の連中も騒いでいるしうるさいよな、初夜にしてはさ。
  火を噴く蟻もそこら中を徘徊しているから面倒この上ねぇよ。それがどうした? ……あー、そうだ、俺の同胞を使って両手両足抑えてやっちまえばいいのか」
  「下品な奴」
  息が整ってきた。
  ローチ・キングは不意にふらふらと立ち尽くす。
  同じmaster能力を持っているアンタゴナイザーにはそれが何か分かっていた。
  支配している虫を呼び寄せているのだ。
  ラッド・ローチを。
  だがアンタゴナイザーは慌てなかった。
  条件は同じだ。
  何故ならアンタゴナイサーもまたmaster能力の持ち主。支配しているものは、幸いこの場にいる。もっとも遺伝子操作された代物を操れるかどうかはアンタゴナイザーも分からなかった。
  遺伝子操作されている以上、別物として定義されるのかもしれない。
  「さあて蟻の女王様よ、俺の愛を受け止めろぉーっ!」
  「蟻よ、私の元に集えっ!」

  VSローチ・キング戦、開始。





  「トロイ、どういうつもりだっ! この僕の、死神との戦いを避けるというのかっ!」
  「避けるってわけじゃない。だが先約みたいだからな。譲るだけだ」
  「ふざけるなっ!」
  「ふざけてはねぇよ。ただ、死神だろ? 死を司る神だ。お前の方が絶対的に強いわけだろ? 相手してやれよ。デモンストレーションってやつだ。俺は兄貴殺した後で参戦するよ、それまで休憩だ」
  ニヤニヤと笑いながらトロイは後ろに下がった。
  俺の遥か後ろに。
  デスは妙なマスクを付けているので顔は分からないがかなり切れているようだ。
  まあ、だろうな。
  分からんではない。
  完全に2人だけの戦いに没頭してたみたいだしな。
  野暮?
  野暮だな。
  邪魔するつもりはない、普通の場合なら。
  だがこの場合は駄目だ。
  デスは俺の舎弟たちの仇だ。
  兄貴である俺が討たなきゃならない。
  見た感じデスはトロイにご執心って感じだがトロイはそうでもなさそうだ。深い因縁があるようでもなさそうだし別にいいだろ。
  実際トロイはすぐに譲ったし。
  「デス」
  「見たような顔だが……」
  「ブッチ・デロリアだっ! いい加減覚えろよっ! ああんっ!」
  「あー、そうだった? まあいい。特別に僕が直々に相手してあげるよ。感謝しながら死ぬがいいさ」
  「トロイ」
  俺は中華製アサルトライフルをトロイに向かって投げた。
  受け取るトロイ。
  「何のつもりだよ、兄貴」
  「そいつは邪魔だ。そんなもんに頼って倒したところで意味はねぇ。さすがにそれ使ったらデスなんか簡単だしよ。それじゃ意味がないんだ」

  「ふざけるなぁっ!」

  デスが吠えた。
  向こうに聞こえたのかは知らないがトロイの声が俺に届く。うまいこと挑発するもんだな、とさ。
  武器は腰の9o二丁。
  これで俺が挑む。
  何故この装備?
  決まってる。
  メガトンの時と同じ装備で挑む、同じ条件で挑む、これが俺のプライドってやつだ。
  「ブッチ・デロリア」
  「何だ?」
  「撃ってこい。抵抗できる内にな」
  「じゃあお言葉に甘えて」
  1丁引き抜く。
  銃口をデスに向けた。
  この2丁の9oピストルはクレーターサイド雑貨店で買った西海岸製。有り金全部投入してモイラに改造して貰った特注品。装弾数は20発。2丁合わせたら圧倒的火力。
  敵が1人なら1丁で充分。
  食らえーっ!
  「舐められたものだね、くだらない」
  トリガーを引く。
  連続して。
  一直線にデス目掛けて飛び出していく弾丸たち。
  だがデスは弾丸が見えているのか、発射された時の大体の感覚で切り落としているのか……まあ、どっちにしても尋常じゃないな……デスは2振りの剣を振るって20発全てを切り落とす。
  ……。
  ……能力者っていうのは厄介だなー。
  顔は見えないがデスは笑っているのだろう。
  小馬鹿にしたように言った。
  「無駄だとご理解いただけましたか?」
  「……」
  笑ってる。
  笑ってるな、こいつ。
  むかつくわー。
  「兄貴、お手伝いしましょうか?」
  こいつもな、ムカつくぜ。
  「黙ってろ」
  「おお怖」
  空のマガジンを捨てて新しいのを装填する。
  「満足したかい?」
  「まだ始まったばかりだぜ」
  「そうかい」
  「そうさ」
  「だが僕は飽きてしまったよ。そろそろ死んでもらおうかな」
  ゆっくりと。
  ゆっくりと歩きながらこちらに向かってくるデス。
  銃を向ける。
  発射。
  連続発射っ!
  「つまらない、つまらない、つーまーらーなーいーっ!」
  切り落としながらこちらに向かってくる。
  面倒臭さが限界まで来たのか突然デスはこちらに向かって一直線に走ってきた。当然弾丸を切り落としながら。
  デタラメだぞ、こいつっ!
  カチ。
  弾丸が尽きる。
  装填している暇はないしホルスターに戻している暇はない。もう1丁の銃を引き抜きつつ、空になった1丁を捨てた。デスはその間にも迫ってきている。銃口を向け、撃つ。

  ばぁん。

  強い反動。
  両手持ちにして撃つ。
  弾丸を切り落とそうとしたデスの剣の1振りが吹っ飛んだ。
  この銃に装填されているのは9+P弾。
  貫通力のある弾丸。
  威力は段違いだ。
  普通の弾丸だと思って切ろうとしていたデスは握りの強さが弱かった。だから銃弾に剣が彼方に吹き飛ばされたってわけだ。
  デスとトロイが口を開いた。
  デスは驚愕。
  トロイは称賛。
  「貫通弾かっ!」
  「ふぅん。考えて戦ってるんだな、兄貴」
  黙れトロイ。
  褒めるなら分かり易い褒め方してくれ。まるで俺が考えなしみたいじゃねぇか。
  まったく。
  さらに銃を連射。
  反動が強いから少々ぶれる、デスに向かわずに見当違いに向かうことも。
  マガジン1本分20発しかない。
  アンディに対して5発。
  残りは全部こいつ用だっ!
  デスはデスで今度は威力を知った上で剣を振るっている。1振りでも充分とか、悪魔かよ。だが剣の方は限界だった。9+P弾の威力に耐え切れずに剣が砕けた。
  チャーンスっ!
  ……。
  ……あれ?
  カチ。
  カチ。
  カチ。
  弾丸切れかよ、くそっ!
  最接近してくるデス。
  無手。
  俺のすぐ間近まで迫ってきている。マガジンを交換している暇はねぇっ!
  銃から手を離す。
  右パンチを繰り出してきたデスの一撃を手で受け止める。
  「良いパンチだぜ、だが、そんなもん……っ!」
  「ふふふ」

  ブス。

  掌を刃が貫通した。
  なるほど。
  メガトンでレディ・スコルピオンとベンジーの腹部を刺した攻撃は、これか。手の甲に飛び出し式のナイフを仕込んでいる模様。下らねぇ真似をするぜ。
  血が止まることなく噴き出してくる。
  拳を受け止めたままだ。
  「意表を突いた攻撃ってやつはどうだい?」
  「下らねぇ」
  「ああ、そう」
  左パンチが俺を襲う。空いている方の手で受け止める。
  当然……。

  ブス。

  まあ、そうなるな。
  出血ひでぇ。
  そりゃそうだ。
  俺様の手の甲を完全にナイフが貫通しているんだからな。
  マスクの下は笑ってるのかな?
  だが認識おかしくね?
  笑うのは俺の方だろ。

  ぐぐぐぐぐぐぐぐ。

  「捕まえたぜ、死神」
  「あれ、動かない……?」
  「おらぁーっ!」
  「……っ!」
  頭突き。
  俺様の頭は石頭で有名だぜっ!
  連打連打連打ーっ!
  さらに膝打ちをデスの腹に叩き込む。
  こいつの持ち味は隠密性だ。
  忍び寄って相手を攻撃、姿消して攪乱、弾丸叩き込んでも切り落としたりと多彩だが逃げれな接近戦の場を作れば大したことない、そう思ってた。実際その通りだったぜ。
  抵抗がなくなってくる。
  大きく頭を後ろに引いてー……超頭突きーっ!

  ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  頭の中に爆音が響く。
  今のはさすがに俺様も痛い。
  フラフラするぜ。
  デスはナイフを収納、俺との連結を断つ。俺は俺でフラフラしているからデスの拘束がなくなった。とはいえデスもダメージ大らしく後ろによろけている。
  これでも食らえーっ!
  ドロップキックっ!
  デスは大きく後ろに吹き飛んだ。
  俺は奴に指を差す。
  「立てよデス」
  「くっ」
  「俺様が喧嘩の仕方って奴を教えてやんぜ」
  「雑魚がぁーっ!」

  フッ。

  姿が消える。
  中華製ステルスアーマーの透明化システムってやつだな。
  「すーはー」
  大きく深呼吸。
  拳を構えて……殴るっ!
  「おらぁーっ!」
  「ぐふっ!」
  クリーンヒット。
  まともに顔に受けてふらつくデス。一気にたたみ掛けるぜっ!
  殴る殴る殴るーっ!
  蹴る蹴る蹴るーっ!
  そしてー。
  「必殺の頭突きーっ!」
  「ぐはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  頭を押さえてその場に蹲った。
  おいおい。
  喧嘩の最中ですぜ?
  「おらぁーっ!」
  デスの顎を蹴り上げた。
  ふらつきながらもデスも攻撃を仕掛けてくる。体術。手の甲に仕込んだナイフも使って攻撃してくるがデスの動きは鈍い。
  相手が3発殴ってくるのを回避する間に俺はその倍殴る。
  俺のは当たる。
  面白いように。
  「はあはあ」
  さすがの俺も息切れだ。デスは俺との間合いを取るように遠ざかる。一定の距離まで。
  そして聞こえる息遣い。
  「ぜえぜえ」
  やっぱりな。
  「デス、お前実は弱くねぇか? 弱いよな? なあ、能力馬鹿」
  「ぜえぜぇ、な、何だと?」
  「前々から思ってたんだよ、お前は体力ねぇよな」
  「はあ?」
  「お前の能力……名前忘れたけど、殺した相手の体力奪うんだろ? だから無限に無双できる。でもよ、殺せなかった場合はどうなんだ? 今なんてまさにその通りだろ? てめぇはよ、
  対集団戦においては無敵かもしれねぇ。だがサシの勝負の場合、長引いた場合体力回復しねぇだろ? 能力に過信して、トレーニング疎かにしてねぇか?」
  「餓鬼がぁーっ!」
  「その餓鬼に追い込まれてんのは誰だってんだーっ!」
  向かってくるデスを殴り飛ばす。
  「透明化の機能だってここじゃ意味はねぇよな、一本道の通路、狭い、まっすぐ俺に向かって来るしかないわけだからタイミング掴めれば殴れる」
  「く、くそ」
  「足音消す能力? ここじゃ何の意味もねぇよ」
  「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  「雑魚なんだよてめぇはっ!」

  「はっはははははっ! こりゃ驚いた、こりゃ参った。まさかデスをこんなに簡単に追い込むとはな。俺だったらもうちっと時間が掛かったろうよ。さすがは、兄貴ってところかな?」

  トロイの笑い声。
  それはそのままデスに対しての嘲りになる。
  だがもはや余裕がデスにはない。
  立ち上がるものの足元はフラフラだし心が完全に俺掛かっている。俺が一歩前に出るとデスは後ろに一歩下がった。意識してなのかは知らんがな。
  デスは弱々しく呟いた。
  「お、お前、何なんだ?」
  「俺か? 俺様はブッチ・デロリア、トンネルスネークのボスで、ワルだ」
  「ワ、ワル?」
  「ああ」
  一歩一歩前に進む。
  弱々しく、そして次第に足早に後ろに逃げようとするデス。
  体はこちらに向いているが逃げ腰だ。
  俺は地面を蹴る。
  一気に決めるぜっ!
  「ワル、ワル、ワルワルワルワルワルワルワルーっ! ワ、ワルって、ワルって一体何だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!」
  「ぶっ飛べーっ!」
  重い。
  重いパンチがデスの顔面に決まった。そしてデスはそのままひっくり返って動かない。
  時折痙攣を起こすだけ。
  完全に意識が吹っ飛んだようだ。
  「よしっ!」
  俺様の勝ちだぜ。
  トンネルスネーク最強っ!

  VSデス戦。
  ブッチ・デロリア、圧勝っ!